styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

2016-01-01から1年間の記事一覧

女王蜂と7人のお世話蜂 アザリロヴィック監督『ネクター』 

『ネクター』 ルシール・アザリロヴィック監督 2014年 フランス オルガ・リャザーノワ 2016年12月14日アップリンクにて 18分の短編に、女社会のヒヤッとする嫌なものが込められている。短い間にも見えない前後のストーリーが完璧に含まれていて、秀逸だ。 蜂…

ナショジオ「地球が壊れる前に」と「レヴェナント 蘇りし者」

「地球が壊れる前に」 フィッシャー・スティーブンス監督 2016年 アメリカ 地球が壊れる前に|番組紹介|ナショナル ジオグラフィック (TV) マーティン・スコセッシ製作総指揮の環境ドキュメンタリー 一昔前、プリウスに乗るセレブということで、環境への配…

ヴィム・ヴェンダース 「誰のせいでもない」 試写会

巨匠ヴィム・ヴェンダース最新作『誰のせいでもない』11/12(土)公開 ヴィム・ヴェンダース監督 2015年フランス・カナダ・ドイツ・スウェーデン・ノルウェー 2016年11月6日 シネクイント 試写会にて 事故によって、運命が変わっていく被害者と加害者の生活…

「世界の果ての通学路」 夢という原動力 感想

「世界の果ての通学路」パスカル・プリッソン監督 2012年フランス ドキュメンタリー 大人が子どもを信じて送り出す、それを受けて、子どもは世界を、未来を信じることができるようになる。世界の過酷な通学路の現実がこの作品で、目の前に届けられる。 www.s…

「サンバ」 自分の居場所を求めて、生きていく移民たち 感想

「サンバ」2014.フランス、パリを舞台に、アフリカからの移民サンバ(オマール・シイ)と精神を病んだ移民サポートのアリス(シャーロット・ゲンズブール)の恋が動き出す。エリック・トレダノ&オリビエ・ナカシュ監督とオマール・シイは「最強の二人」以…

幸せを運ぶ映画「100人の子供たちが列車を待っている」が見たい

映画のワークショップと子供のドキュメンタリー イグナシオ・アグエロ監督、チリ映画、1988年。テレビ放送か何かかで、私も見たのはかなり前になる。いまだに心に残る一番といえる作品。 映画作りを学ぶ子供たちの様子はほとんど忘れてしまったけれど、列車…

ブニュエル×ダリ 「アンダルシアの犬」 嫌なものは嫌だ(見たい) 感想

好奇心は怪我のもと 「アンダルシアの犬」はシュールレアリストであり、映画監督ルイス・ブニュエルの金字塔。シュールレアリスムといえば、サルバートール・ダリの方が一般的に知名度は高いだろう。 その二人が協力してできたこの作品は、おそらく見た人を…

「メランコリア」 吸い込まれてしまう前に壊れる 感想

ラース・フォン・トリアー監督 2011年 デンマーク キルスティン・ダンスト、シャーロットゲンズブール、キーファー・サザーランド出演 絶望を前にした人びと 「メランコリア」はラース・フォン・トリアー監督作品の中でも一番見やすいと思った作品だ。 キル…

秋の印象といえば「ジュールとジム」(突然炎のごとく) 感想

寂しいから秋を感じる ジュールとジムという原題が気に入っている。しかし、これは三角関係を描いた作品だ。だから、女性の名前がないとおかしい。 「ジュールとジムとカトリーヌ」または「カトリーヌとジュールとジム」 カトリーヌという、二人の運命の女性…

「キャンディ」 60年代的ハチャメチャロリータエロティック 感想

ロリータ顔のスウェーデン美少女を狙う狼たち ファッションに惹きつけられ女ともだちと見に行って、ちょっとはずかしかった映画。 原因は、すぐに襲われてあられもない格好になってしまう女子学生キャンディ。 でも、その甘い顔とは反対の真面目な発言をする…

「NTL フランケンシュタイン」 孤独と愛に苦悩する二人の主役 舞台の上映レポート

www.ntlive.jp 2016年8月28日 Bunkamura ル・シネマにて ベネディクト・カンバーバッチ=博士 ジョニー・リー・ミラー=怪物 カメラを通して見る舞台「フランケンシュタイン」 ナショナル・シアター・ライブの迫力が映画館で味わえるというのでロンドンに行く…

「ホーキング」 未来を信じる科学者の青春時代 感想

生かされていると思える深い内容 「ホーキング」では、博士になる前のスティーブン・ホーキングが主人公だ。作品はケンブリッジの学生時代にALSで余命二年と診断され、徐々に体の動きが制限され始める様子を追っていく。 ホーキングは、一般相対性理論でアイ…

木々を揺らす強い風と夏の日差し ジャン・ルノワール「草上の昼食」

おおらかに自然に包まれる夏の午後 マネの「草上の昼食」と同名の映画作品は、夏に見るのにふさわしい。 絵画のような映画の中でも、特に映像であることに意味のある作品だ。画家の息子であるジャン・ルノワールだからなせる画面構成は動く絵画のよう。 それ…

「民族の祭典」 レニ・リーフェンシュタールの美的世界

鍛えられた肉体の美しさという幻惑 オリンピックイヤー2016年はリオ五輪に沸いている。テロによる世界の不安定な情勢や、IOCの裏金、ロシアのドーピングといういくつもの懸念事項がある中でも、真摯にスポーツに打ち込むアスリートの姿は美しい。 ヒトラーに…

80年代ノスタルジーという安心感 「レネットとミラベル」 感想

mermaidfilms.co.jp 「レネットとミラベル」下高井戸シネマにて 2016.7.13. 色とりどりなフランスの80年代 エリック・ロメール監督の「レネットとミラベル」1986年 はヌーベルバーグの流れをくむ4つの短編からなるオムニバス形式。 田舎の純朴なレネット…

「悲しみよ こんにちは」 サガン名作を読む・見る夏に 感想

海に持っていきたい本 「悲しみよ こんにちは」フランソワーズ・サガン作 コートダジュールでバカンスを過ごす、ブルジョワたちのひと夏を描く。 恋愛にただ現を抜かすことのできないのがパリジェンヌ。17歳のセシルが新しい感情と出会う葛藤が、小さな出来…

「ムード・インディゴ~うたかたの日々」 幸か不幸か、美しきロマンスの夢 感想

お祭の後のような悲しさが良い ミュージックビデオ風の映像の遊びも多く、ちょっと疲れるときもあったけれど、全体的に見て良かったという幸福感を感じられる作品だ。 この作品を見て、ミッシェル・ゴンドリーはただの夢想家ではないと確信。 「エターナルサ…

元気が出るラブコメをチャージ 「タイピスト!」 感想

なんかほんわか上京恋愛ものがたり タイピングがもてはやされ、女性の職業として憧れのまとだった時代に、田舎から上京してきた女の子がトップを目指すサクセスストーリー。 時代の雰囲気が服装やメイクに現れていて眺めているだけでも、ポップで明るい気持…

ジュリエット・ビノシュ&ルー・ドラージュW主演 「待つ女たち」 イタリア映画祭レポート

2016年5月1日 有楽町朝日ホール イタリア映画祭 「待つ女たち」上映+監督の質疑応答 フランスだけでなくハリウッドにも進出し、今では大御所となったジュリエット・ビノシュと、新進気鋭、ほぼ無名だったルー・ドラージュのダブル主演。イタリアのシチリアを…

「ポンヌフの恋人」 もうじきパリ祭、花火のポンヌフを背景に 感想

レオス・カラックス監督 1991年 フランス 夏の夢のような映画 パリの歴史の始点、シテ島にかかる橋、ポンヌフ(新しい橋)を舞台に、運命的に心を通わせる男女の物語。 その日暮らしの大道芸人と、片目失明寸前の美術学生という破滅ギリギリラインの二人。暗…

ハネケ監督「愛、アムール」 夫婦のダンスはいつまでも続く 感想

ミヒャエル・ハネケ監督 2012年 オーストリア、フランス、ドイツ 最愛の人だから 話がこじれる 発作から半身麻痺の後遺症を残し、認知症を患っていく妻と、「もう入院はさせない」という約束をした夫の愛のストーリー。 見終わって、あまりの重苦しさに、息…

哀しい愛を抱えて クレール・ドゥニ 「ガーゴイル」 感想

愛は哀しい 非情な病に悩む二人 情事の際に発動するカンニバリズムを持つ病が、現代社会にあるとしたら…。 ヴァンパイアのように哀しい宿命を持つ、病に侵された男女のそれぞれの生き方を描いた問題作。 この病の持つ、愛するほどに愛せない苦しみ。 愛する…

「黒水仙」 高潔で禁欲的な尼僧界のスキャンダル 感想

ナルシシズムを感じる高潔さを憎む 水仙は神話のナルシスにも通じる、うぬぼれ屋のイメージがある花で毒もある。黒水仙なんてものは存在していないのだけれど、ブラックなイメージが全開の作品だ。 ヒマラヤの奥地の教会に赴任してきた尼僧たちが、孤独と宗…

フランス映画祭レポート 「ショコラ」 2016.6.26

「ショコラ!(仮題)」 Chocolat - Bande-annonce あらすじ 19世紀末、大衆芸能文化が花開くパリで大成功をおさめたサーカスの目玉、黒人と白人の道化師のコンビ。ショコラ(オマール・シイ)はこの黒人の道化師のことだ。 落ち目の道化師フティット(ジェ…

「フレンチなしあわせの見つけ方」 結婚してても恋しているのがフレンチ 感想

だから 結婚してる意味がある 誠実で気の合う夫(イヴァン・アタル)と、可愛い息子を持つ主人公(シャルロット・ゲンズブール)。自分の仕事も大切にして、何不自由ないパリの一家の日常を切り取った作品。 結婚していても、目移りすることはある。この作品…

包容力のある恋に癒される 「ナタリー」 感想

キラキラな恋人からダサい恋人へ 見た目は関係ない恋の引力 絵にかいたような美しい恋人同士が、パリのカフェで出会い、うらやましくなるような生活を送っている。 それが一転、突然の死別。という最悪の結末を迎える。この物語はそこから始まる。 感情を押…

「シェルブールの雨傘」 ドヌーヴの美声・美貌に酔う 感想

ドヌーヴの美しい額が初々しい フランス女優の大御所としての地位を不動に固めたカトリーヌ・ドヌーヴのうら若き21歳の時の作品が、代表作「シェルブールの雨傘」。ミシェル・ルグランの音楽をつけた、ジャック・ドゥミのテンポの良いミュージカル映画が面白…

「ランジェ公爵夫人」 踏み越えることのない垣根がもどかしい 感想

公爵夫人の優雅な誘惑 なんだろう、見終わった後の遠い目になるかんじ。 ジャンヌ・バリバールはたおやかで上品で、でもえげつない公爵夫人を見事に演じきっていた。そして、ギヨーム・ドパルデューの将軍も武骨で繊細で、また駄々っ子のようで最高だった。 …

「エコール」 見てはいけないものを見てしまった気分になる 感想

ルシール・アザリロヴィック監督 2004年 フランス マリオン・コティヤール出演 原題:Innocence(無垢)に込められた意味 日本名「エコール(学校)」の響きと原題「イノセンス(無垢)」ではとらえ方が異なる作品だ。 少女を集めて美しく育て上げる学校で起…

誘惑する眼差し メラニー・ロランの虜になる 「PARIS」 感想

いくつもの人生がそこにある、パリの群像 セドリック・クラピッシュが描く、パリを中心にした群像劇。いくつもの人生のリアルな痛みが交差する。 死に至る病を患う弟(ロマン・デュリス)を気遣う姉(ジュリエット・ビノシュ)を軸に展開するストーリーは、…