「まぼろし」 途方に暮れる妻シャーロット・ランプリングの美しい憂い 感想
熟年夫婦だからこその色香と淋しさ
バカンスを過ごす海辺の別荘で、いつもの風景から当然消えた夫の姿。激しい動揺や取り乱した姿を晒し続けない妻の気丈な振る舞いが逆にリアルに感じる。
夫の替わりはいないと強く思う絆の深さが印象的なのはベッドシーンだ。いくつになっても愛をかわすフランスの夫婦ならではの寝室の描写は、大人の女性の円熟した色気がさらに淋しさを見せつけてくる。
きっとどこかにいるはず、という想いが強いことで見る夫の幻の数々。ラストシーンの海辺でも人は最後まで見たいものを見ようとするのだ。
死別は心に大きな穴をあける。それは近い人ほど苦しい。シャーロット・ランプリング自身が体験をもとに喪失の感情を再現したという、まぼろしでの演技は素晴らしかった。
若い女優との対比に衰えない女優魂
シャーロット・ランプリングは知的で静かな女性のイメージが強い。その裏に激しい感情を隠しているところに魅力がある。歳をとっても知性と美貌と色気を保ち続ける点、お手本にしたい。
フランソワ・オゾンとは「スイミング・プール」「17歳」などで関わっている。どちらも若々しい魅力あふれる女性と対照的な大人の女性の魅力を見せてくれている。
シャーロット・ランプリングはイギリスの女優だ。フランスの奇才といわれるオゾンの作品にちょっとダークなトーンで落ち着きを与える役割を果たしている。
他の監督の作品だが、「さざなみ」で70代になってアカデミー賞にノミネートされるところは、いつまでも主演する女優としての魂が感じられる。年齢を重ねるほど真価を発揮する今の時代を支えてくれる本物の女優だと敬服。