オリヴィエ・アサイヤス監督 「夏時間の庭」 感想
家は風景画のように変わらない
この作品は、印象派の画家達が愛したパリ郊外の小さな町、ヴァルモンドワを舞台にしている。そのため、夏の日差しをいっぱいに浴びた家と庭の風景が、美しくゆったりとした映像になっている。光を封じ込めたような印象派の絵画のような映像が魅力だ。
ストーリーは、画家の大叔父の家に住む母親を祝うため久しぶりに集まった兄妹とその子どもたち。母はコレクターでもあり数多くの美術品を守っていた。しかし、自分の最期を想い長男に美術品の売却を依頼する。
その母が急逝し、再び集まった兄妹だったが、それぞれに価値観が違い、遺産相続の話がなかなかまとまらない。まとめ役の長男が家の存続を働きかけるが、今では弟も妹も海外に住み気持ちもバラバラだ。思い出の詰まった家、歴史的価値の高い美術品、そのすべてを受け止めるだけの気持ちが他の妹弟にはないことに長男はショックを受ける。
ヴァルモンドワの家は夏の日差しに照らされ、昔と変わらず佇んでいるが、作品前半の、家族を大切にするフランスらしいガーデンパーティーの風景は急に遠い時代のことのように感じられる。
フランスにもある相続問題
家の相続は、血のつながった兄弟であっても、もめごとの原因になる大問題だ。フランスでは配偶者以外に5~45%の相続税(日本は10~55%)がかかる。
こうした相続問題は日本でも多くみられるし、今後さらに増えることが予想されるだろう。古いものを大切にすることと、私たちが生きている時代のあり方は、必ずしも結びついてはいないと感じる。
また、この映画では弟、妹の住む場所が、アメリカ、中国とグローバルな点も時代を象徴している。家を中心にして人生が広がっていった時代とは違うのだ。美しい庭のある家の風景は時の止まった印象画のようだが、家族がバラバラになってしまっている現実は止められない。
作品の中の美しい夏の庭に、自分の思い出を重ねて郷愁を感じる素晴らしい作品。