styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

「世界一美しいボルドーの秘密」 ワインは恋、ボトルはステータス❓ 感想

世界一美しいボルドーの秘密 [DVD]

ワインは嗜好品なのか?芸術品なのか?

近年のグローバル化に中国資本が存在感を表わすにつれて、ボルドーワインをめぐる、世界市場の過剰反応が問題視されている。翻弄されるフランスのシャトーや生産者たちの声を拾いつつ、ワインのもつなみなみならない魔力を暴いていくドキュメンタリードラマ。

 

ワインは確かに飲み物だけれど、その歴史を見れば芸術の域に達している。しかも、一本のボトルに詰まっている価値は時間であり、土地の記憶だという。そして体に取り込めば消えてしまうはかないものだ。

 

新しいものを取入れて、自分たちのアレンジを加えることに情熱を燃やす中国と、古いものを情熱をかけて大切にし、自分たちのアイデンティティに誇りを持つフランス。両者の違いは明らかだが、誇り高い民族としては似ているところもあるといわれる。

 

市場でみれば、斜陽のヨーロッパと、圧倒的な人口で中心に躍り出た中国の役回りはあるだろう。しかし、どちらも目指すところは一つ。後の世代に美味しいワインを残すことだ。

 

ワインは芸術品ではなく、何よりも贅沢な嗜好品だと思う。しかし、ワイン造りの歴史はフランスの誇る芸術ともいえるだろう。その二つの間で、中国人とフランス人が揺れているのだ。

 

この作品を見て中国が悪いと糾弾するのではなく、むしろ、フランスに再びワイン生産の意義を強く意識させる良い結果になるのではないかという印象を持った。

 

「ワインが好き」の二種類

そもそもワイン好きには二種類いるのかもしれない。どんなメーカーであっても(ピンでもキリでも)飲むことが楽しいという人と、ワインを持つ(手に入れる)ことが楽しい人。

後者の場合は飲むことよりもその瓶が大切なんだと思う。いつか飲むか、それは誰にもわからない。コレクターは集めたものが損なわれるのを嫌うだろう。その所有者が持っているうちには飲まれない可能性の方が高い。

 

私は、コンビニのワインでもOK。一人でも大勢でも、ワインを飲む時間が好きだ。ワイン造りは芸術だけど、飲むときには嗜好品として楽しくいただきたいと思っている。

 

そもそも手に入らないボルドーの有名シャトーのワインボトルは遠い話でしかないが、本来手にするはずの人、本来その味を楽しむ人にとっては市場による値上げや偽物の登場など、迷惑でしかないだろう。

 

この作品を見て、今後もボルドーワインがより頑固にこれまでの歴史を守り抜いてほしい気持ちと、中国で美味しいワインが安全に作られるようになり、日本でも人気がでて手ごろに出回る日が来るかもしれないなという予感とが両方得られた。

 

この作品を見て、ふと、フランスの詩人ボードレールの名言に「恋人は一瓶のワインであり、女房はワインの瓶である」という名言が頭に響いてきた。

 

恋とすれば、はかなく、その後には瓶だけが残っている…。ちょっと悲しい美しさがまた、人の心を離さないのだろう。

「ミッドナイトインパリ」 恋ってこんな風にしたい妄想が満載 感想

ミッドナイト・イン・パリ [DVD]

夢見がちな婚約者の見せる奇行

婚前旅行できた花の都パリ。成功した脚本家の婚約者(ギル)に資産家のお嬢様もなんとなく不思議なオーラを感じている様子。

 

そしてついに、馬車がギルを迎えに来て、憧れの古き良きパリへタイムスリップさせてしまう。パリが最も熱かったボヘミアンの時代へ来たギルは、マリオン・コティヤール扮する美しいミューズに恋をする。

 

この妄想とも思える世界に行き来するようになり、夢と現実がごっちゃになっていく様は、おかしい状況なんだけれど、笑える。まさにウディ・アレンのラブコメディだ。

 

ばかばかしい、付き合ってられないと去っていく婚約者の気持ちが痛いほどわかる一方、ギルが真夜中の別のパリに魅了されてしまう気持ちもわかる。だから、おかしな言動や考え方のギルを放っておけないし、話に引き込まれてしまう。

 

一見、不可解な行動なのに、それなりの個人的な筋が通っている話しに引っ掻き回されるのが心地よい。

懲りない男の恋心

この作品で一番いいシーンだと思うのは、レア・セドゥと一緒に歩くシーンだ。なんだかほっとして、現実に帰った気持ちになる。

 

結局、こんな美女が一緒に歩いてくれる、そんな現実のパリを最も夢見ているのではないだろうか。歩調を合わせて会話を楽しみながら夜のパリを歩く。ウッディ・アレンが夢見ているパリの恋は、きっとここに極まっている。


映画『ミッドナイト・イン・パリ』予告編

「プライドと偏見」 イギリス文学的大人の恋愛の世界にはまる 感想

プライドと偏見 (字幕版)

 

美し過ぎる、イングランドの風景に再現された世界観

18世紀、女性の立場は低く、中流階級では娘が身分の高い男性に見染められることを望む父や母の姿がしばしばみられた。

 

その時代背景のなか、主人公のエリザベスは、見事、高貴なお方を射止めることに成功する。身分違いのラブロマンスから、ハッピーエンドといった原作を美しく再現している。

この作品の魅力は、登場人物が恋に溺れているのではなく、自分の立場や社会の在り方に対してほどよく葛藤しながら動いていくところにある。ラブロマンスといっても、必要以上に甘くならない点が心地よい。

 

イングランドの雄大な景色から、当時と変わらない空気感も感じられる。イギリスにはこんなに自然が残されているのかと、圧倒され、馬で駆けるシーンも絵になる。

 

ジェイン・オースティンの恋愛観をめぐる

恋愛の在り方の様々な型を提示するといわれる、ジェイン・オースティンの文学作品には今も全世界にファンが多い。その中で、「エマ」や「いつか晴れた日に」などいくつも映像化された作品がある。

 

プライドと偏見は「高慢と偏見」というタイトルの原作を持ち、生まれによって高慢なところのあるダーシーと、身分に対して偏見を持つエリザベスの関係を描いている。

マシュー・マクファディンキーラ・ナイトレイにより、すれ違いや、恋心の機微が視線や表情できれいに表現されている。映像化の際に原作から省略された部分があっても、一つの完成された作品として楽しめる。

 

この作家を題材にした「ジェイン・オースティンの読書会」という映画の存在も、人気の高さを示している。ジェイン・オースティンは何世紀経っても色あせない、普遍的な大人のロマンスの形を綴っている。キラキラした大人女子も、恋愛文学に惹かれるところがちょっと面白かった。

ジェイン・オースティンの読書会 コレクターズ・エディション [DVD]

激しく、暗い、恋の映画 イザベル・アジャーニ 「カミーユ・クローデル」 感想

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激情を秘めた青い瞳に憑りつかれる

イザベル・アジャーニのつぶらな青い瞳で見つめられたら、どんな人でもドキッとするだろう。そんなに魅力的な女性にこんなに酷な仕打ちをするのかという役が「カミーユ・クローデル」である。この役は、狂気の恋に強迫観念すら覚えるアジャーニの出世作、ユーゴーの娘を演じた「アデルの恋の物語」と同じくらい、はまっている。

 

カミーユ・クローデルは女性彫刻家として活躍し、繊細な細部とリアルな表情の作品を残している。同じく天才彫刻家、ロダンの愛人だった経緯に注目したのが映画「カミーユ・クローデル」だ。

 

二人が破局するまでの経過が残酷で、だんだん心が痛くなっていく。あんなにひかれあった二人が終焉した時の灰になったようなカミーユの姿は印象的だ。深く傷を負うような恋とその破局が、か弱い印象のイザベル・アジャーニを打ちのめす。同時に離れて行ったロダン演じるジェラール・ドパルデューのずるい男ぶりも見どころだろう。

 

イザベル・アジャーニのどこかに狂気を宿しているような美しさは、見ている人を不安にさせる。そして、結果的に不幸な役を演じさせることで、調和すら感じるのだ。

 

美しいのに怖い。かわいいのに居心地が悪い。若い日のイザベル・アジャーニの不思議な魅力が感じられる作品。

問題ガール?モノ言うイラン女子を描いたアニメ 「ペルセポリス」 感想

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ヴェールで隠しきれないマルジのバイタリティー

イランに生まれた女の子マルジは、リベラルで反体制的な親や祖母の影響で自由闊達に成長していた。快活で自分の意見をはっきり持っている彼女だったが、イラン王政が倒れ、その後の宗教的な政治によって人生を翻弄されてしまう。

 

閉鎖的なイランを逃れウイーンへ留学するが、西洋文化についていけず結果的に放蕩し失恋。失意からイランへ戻ってきた彼女だったが。彼女のさすらいの旅はさらに続いていく…。

 

イランの女性マンガ家でもあるマルジャン・サトラピ監督の半生をもとにしたというこの作品は、フランスで発表されたが、イスラム圏では大きく問題視されている。アニメーションは迫力のあるシンプルな絵が特徴的。

 

娘に幸せな人生をという普遍的な願い

娘には賢く、自立して意見を言えるようになってほしい。一方、周囲とうまくやっていくには女性的であること(ひかえめで貞淑なこと)も忘れないでほしい。この二つを求められる女の子の人生はどこでも大変だ。

 

特に、戒律の厳しいイスラム社会では社会的に存在が脅かされることもあるのかもしれない。しかし、ヨーロッパに渡ったマルジの人生も甘いものではなかったところが、共感できる点だ。どこに行っても辛いことはある、強く切り抜ける力が必要なんだと感じさせる。

 

女の子の親ならば、自分を大切にして、良い仲間やパートナーに恵まれる人生を歩んで欲しいというのは普遍的な願いになるだろう。しかし、時に政治がそれを許さないこともある。女性にとって本当に賢い生き方が何なのか、考えさせる作品だ。

 

豪華な声優の母子関係も注目

この作品では、祖母、母親、娘の理知的でロックな会話も魅力。その声優に大女優、ダニエル・ダリュー(祖母)カトリーヌ・ドヌーヴ(母)とその実の娘キアラ・マストロヤンニ(マルジ)が当たっている。ダニエル・ダリューはドヌーヴより一世代前のフランス大女優で、「ロシュフォールの恋人たち」でも母娘を演じている。

このキャスティングの豪華さが作品の格を上げているだろう。

 

www.afpbb.com 

 

力強い女性監督の言葉が聞けるインタビューはこちら。


カンヌ '07、コンペ部門出品作『ペルセポリス』インタビュー

大人の魅力といえばこの女性、ファニー・アルダンの美 「日曜日が待ち遠しい!」 感想

 

日曜日が待ち遠しい! (フランソワ・トリュフォー監督傑作選8) [DVD]

 

フランソワ・トリュフォー監督 1983年 フランス

ファニー・アルダン主演

トリュフォーの遺作、美人秘書ファニー・アルダンが活躍

セクシーな美脚、唇、でもどこか男性的で、女から見てもハンサムなファニー・アルダン。サスペンスで描けばクールでエロティックな怪しい存在になってもおかしくはないのだが、ヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォーの「日曜日にが待ち遠しい!」では程よいコメディタッチが親しみを感じさせる。

 

何度も見たくなる理由は、結末や顛末といったストーリー上の興味やハラハラするサスペンス特有のしかけでもない。

 

ただ、秘かに想いを寄せる社長を守るために女秘書ファニー・アルダンが車を運転するシーンが美しいからだ。

 

ヌーベルバーグの映画は引用も多く、フランス文化に通じていないとわからないジョークなどがありすべてを把握しきれないのも事実。そうしたトリュフォーの知的な遊びを差し引いても、私はこの作品のユーモアやテンポが好きだ。

 

トリュフォーはサスペンスの巨匠、ヒッチコックを敬愛していた。ヒッチコックといえば、「サイコ」「鳥」など、人を恐怖に陥れる天才だ。一方、トリュフォーのサスペンスは安心して見られる(怖くない)ところに愛着がわく作品だ。

 

心地よく展開するサスペンスは、主人公の社長のヒステリックな性格にも人間味がある。全体にただようゆるい雰囲気というか、当時結婚関係にあったファニー・アルダンへの愛が溢れた素敵な作品だと思う。

 

この作品を最後に1984年脳腫瘍のためこの世を去った、フランソワ・トリュフォー。ここ数年、シャブロル、リヴィエット、ロメールと仲間たちが亡くなり、あちらの世界で邂逅を果たしているのかもしれない。

 

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「パリ、18区、夜。」 断片だけどつながっている大きなストーリー 感想

J'ai pas sommeil

パリ北部、18区は移民の街

この作品は1993年に作られている。この前後にはイスラム教女性のスカーフ着用事件など移民政策における他文化に対する問題点が議論になっている。

 

パリ北部18区というと、バルベスやシャトールージュなどの地下鉄駅があり、アフリカ系やアラブ系の移民が多く住んでいる地域だ。他にもインド人などが見られ、パリの中でも雰囲気の違った移民の街の側面もある。

 

その場所を舞台にした映画がクレール・ドゥニ監督「パリ、18区、夜。」である。

 

老婦人の連続殺人事件を横目に、出生を全く異にする二人の男女がすれ違う様子を描いている。男女は恋愛に発展するでもなく、淡々とそれぞれの時間を生きている二つの人物が交差する独特の作品だ。

 

フランス社会における移民の問題を独自の視点で切り取った、クレール・ドゥニ監督の眼差しは今見直しても価値のあるものだろう。しかし、日本ではDVD化されていないのが残念。VHSのある方はぜひ見てみてほしい印象深い一作だ。

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「コーラス」 ジャン・バティスト・モニエの天使の歌声が聞きたくて 感想

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学校一のワルからコーラスのソリスト

ジェラール・ジニョ演じる教師が赴任した学校では、やんちゃ盛りの男の子たちが問題ばかり起こしている。中でも一番のワル、問題児モランジュ(ジャン・バティスト。モニエ)に手を焼く。

 

しかし、モランジュは天使の歌声を持っていた!!繊細で実は傷つきやすい一面を持つモランジュは美少年な点もこの作品を忘れられなくなる要因に。

 

情熱を持って自分に向き合う教師の姿は、父のいないモランジュにとって成長の糧になっていった。問題児の多くが抱える淋しさを包み込むように覆っていく様子は心打たれる。特別なことは起きないけれど、自分を守ってくれる信頼のできる存在がいてくれると人は変われるのだろう。

 

また、コーラスでは、周囲の仲間たちの歌声を聴き合うことが大切だ。その練習を通して荒れていた子どもたちが思いやりを持てるようになってく。ソリストのモランジュだけでなく、他の子どもたちにも目が行くように作られている点も好ましい。

 

モランジュ演じるジャン・バティスト・モニエはすでに大人になり、この時の美声はもう失われてしまった。成長過程で消えてしまう天使の歌声だからこそ、この作品は素晴らしいと思う。

 

ちなみに、youtubeに面白いインタビューがあった。大人になったモランジュと先生が一緒にテーブルを囲みながらインタビューを受けている。知りたいような知りたくないようなジャン・バティスト・モニエの成長した姿なのでした…。


Jean-Baptiste Maunier - C à Vous -

ミヒャエル・ハネケ監督 「ピアニスト」 見終わって傷つく 感想

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貞淑な女教師と美形学生のいびつな恋

厳しい母親に管理されて大人になった女性が、お堅いピアノ教師になる。いわゆる毒母の影響で、女性としての成長を抑えられてしまった悲しい主人公をイザベル・ユペールが演じきっている。

 

その彼女を誘惑する男子学生を、ブノワ・マジメルという金髪青い目の美形役者が演じているのが、何とも憎い。イザベル・ユペールと並んで二人の美しさは世代を超えて完璧なのだ。

 

美しい外見と裏腹に、イザベル・ユペール扮する教師も、ブノワ・マジメル演じる美形学生も性格・性質ともに歪んでいる。男女がこんなに美しいのに、幸せとは程遠い狂った恋に向かって行く。映像はどれも美しいがために、傷ついていく姿は痛々しく感じられる。

 

痛みを感じさせる作品作り

ファニーゲーム」でもそうだったように、「ピアニスト」でもミヒャエル・ハネケらしい痛々しい展開には、途中で目をそらしたくなるくらいだ。

 

見ているものが居心地悪く、辛く、痛みすら感じる追い込み方は、冷徹な脚本と映像、キャスティングによって調和されている。「ピアニスト」ではそれが、最高に洗練されて研ぎ澄まされているように感じる。

 

ハネケ監督はこのように述べている。

逃げ出すのが不可能になる形式を見つけ出そうと、私は試みているのです。状況をラディカルに尖鋭化させて、心理的個人的な鋳型を避けることで、観客自身を不安と攻撃の真っ只中に投げ込むことのできる形式を探し求めているのです。

テレビ東京 CINEMA STREET / ピアニスト

私の映画を嫌う人々は、なぜ嫌うのか自問しなければなりません。嫌うのは、痛いところを衝かれているからではないでしょうか。痛いところを衝かれたくない、面と向き合いたくないというのが理由ではないでしょうか。面と向き合いたくないものと向き合わされるのはいいことだと私は思います。
結局のところ、いかに奈落に突き落とすような恐ろしい物語を作ってみても、我々に襲いかかる現実の恐怖そのものに比べたら、お笑い草にすぎないでしょう。

テレビ東京 CINEMA STREET / ピアニスト

 ※第23回 ぴあフィルムフェスティバル 「知らせざる世界の巨匠 ミヒャエル・ハネケ
インタビュー:スザンネ・シェアマン(映画研究家・明治大学助教授)
ドイツ語翻訳:須永恒雄(独?文化研究・明治大学教授)より転載

 

このように、意図的に、私たちに不安や痛みを与え、その結果まで受け入れて作品作りをしている。いじわるといえばその通り。しかし、恐ろしいことは現実世界でいくらでも起こっているというメッセージも込められているのだ。

 

実社会の痛みの鏡になる?次回作「ハッピー・エンド(原題)」へ

ハネケ監督は2001年の「ピアニスト」後も作品を作っているが、2016年は難民問題を扱った作品を撮影予定という。

 

ハネケ監督次回作はヨーロッパの難民問題もテーマに イザベル・ユペールら出演 : 映画ニュース - 映画.com

 

上記の記事に載っているように、ハネケ監督はヨーロッパの映画人が難民支援に声を上げた「For a Thousand Lives: Be Human」というキャンペーンにも参加している。他にも、ジュリエット・ビノシュジェーン・バーキンレア・セドゥーなど女優陣やスザンネ・ビアなどの監督たちも名を連ねている。

 http://for-a-1000-lives.eu/

 

現実に、今苦しみ・痛みを感じている人たちをどうとらえるのか、原題は「ハッピーエンド」というのは何を意味するのか、興味関心が高まる。イザベル・ユペールの出演というのも「ピアニスト」の余韻を感じさせる。

 

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「鑑定士と顔のない依頼人」 過去から動き出した時間 感想

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敏腕鑑定士の目を欺くなら

明らかに怪しい電話依頼を受けたオークションの腕利き鑑定士バージル。罠だとわかっていても、姿を見せない「顔のない依頼人」に憑かれるように惹かれていった。

 

広場恐怖症というパニック障害を持つ依頼人、クレアは実はブロンドの美女で、その美しさは、彼の持つどんなコレクションにも勝っていた。美術品だけを愛してきた孤独なバージルは、初めての恋に戸惑う。

 

見ている方も、サスペンス映画の展開でストーリーに引き込まれていく。そして、だまされているんだと頭のどこかでわかっていながら、バージルの幸せを夢見てしまう。

 

この作品のラストをどうとらえるか。それはを人にゆだねている点が快い。

 

私は、この事件をきっかけにバージルの時間が動き出したことをすがすがしく思った。過去の美術品の価値はもちろん高いものだが、「今、生きている」ことは何にも代えがたい価値がある。だから、この映画が好きだ。

 

ジュゼッペ・トルナトーレ監督は、「ニューシネマパラダイス」や「海の上のピアニスト」といった映画史でも重要な作品を作っている。一方、「鑑定士と顔のない依頼人」はサスペンスとしても心理劇としても地味な印象だが、深みがあって心に残る。