styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

「鑑定士と顔のない依頼人」 過去から動き出した時間 感想

鑑定士と顔のない依頼人 スペシャル・プライス [Blu-ray]

敏腕鑑定士の目を欺くなら

明らかに怪しい電話依頼を受けたオークションの腕利き鑑定士バージル。罠だとわかっていても、姿を見せない「顔のない依頼人」に憑かれるように惹かれていった。

 

広場恐怖症というパニック障害を持つ依頼人、クレアは実はブロンドの美女で、その美しさは、彼の持つどんなコレクションにも勝っていた。美術品だけを愛してきた孤独なバージルは、初めての恋に戸惑う。

 

見ている方も、サスペンス映画の展開でストーリーに引き込まれていく。そして、だまされているんだと頭のどこかでわかっていながら、バージルの幸せを夢見てしまう。

 

この作品のラストをどうとらえるか。それはを人にゆだねている点が快い。

 

私は、この事件をきっかけにバージルの時間が動き出したことをすがすがしく思った。過去の美術品の価値はもちろん高いものだが、「今、生きている」ことは何にも代えがたい価値がある。だから、この映画が好きだ。

 

ジュゼッペ・トルナトーレ監督は、「ニューシネマパラダイス」や「海の上のピアニスト」といった映画史でも重要な作品を作っている。一方、「鑑定士と顔のない依頼人」はサスペンスとしても心理劇としても地味な印象だが、深みがあって心に残る。