styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

移民の子どもたちを描く「身をかわして」 感想

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移民の子どもたちの日常を描く

主人公である移民の子が通う学校では、フランス文化を大切にした授業が行われている。発表会では、マリヴォーの演劇を行うことになるが、移民の子は興味があまり持てない様子。しかし、白人のフランス人の女の子と一緒に劇の練習をするなかで、興味を持ち役にも挑戦する。

 バンリュー(フランス語の郊外という意味。パリなど大きな都市の近隣にある、低所得者層の住む公営住宅を指す。)での移民の子どもたちの日常生活を切り取ったような素朴な印象の作品。団地生活も暗いものではなく、幼い彼らの日常は同じ移民の友達とつるみ、遊ぶいわば普通の日常に見える。

 

しかし現実では、 その後このバンリューで暴動事件がおきてしまう。時がたちパリでのテロ事件やシリアの難民など、フランスに住み続けている移民の立場は厳しいものになっているかもしれない。映画で見た子どもたちの日常はこの時とは変わってしまったのだろうか。

 

この作品は、「アデル、ブルーは熱い色」でレズビアンを主題にした監督、アブデラティフ・ケシッシュの日本未公開作。2004年、滞在中のフランスでたまたま見たのだが、忘れられない内容だった。そして、昨今のホームグロウンによるテロ事件がある中で、強く思い出される主題だ。

 

監督自身移民としてチュニジアから6歳の時にニースへ渡ってきている。その後、アンティーブのコンセルバトワールで演劇を学んでいることから、この主人公に気持ちを重ねた部分があるのではないかと思った。フランスに同化するのは難しいことではあるが、演劇を通してフランス文化に興味を持ったのではないだろうか。

 

こうしたケースは誰にでも当てはまることではないが、今のままのフランスの移民政策で移民の子どもたちが暮らしやすくなるには、フランス文化に同化する切っ掛けが必要なのかもしれない。

 

移民に対して閉ざされた日本にいて、移民の問題やホームグロウンのテロを考えるときに、考える糸口になる重要な作品だと思う。