マチュー・アマルリック主演 「潜水服は蝶の夢を見る」 感想
もがきながら、かっこ悪くても生き、そして蝶になる
世界的に有名なファッション雑誌の編集者、ジャン・ドーは、申し分のない成功者の人生を歩んでいた。しかし、ある日、息子とドライブ中に脳梗塞で倒れ左瞼を残して全身が動かない状態になってします。
身体は動かないが、精神状態は以前のままというロクトインシンドロームになった彼は、言語聴覚士の助けを借りながら左瞼の動きだけで自伝を執筆することになる。
ナレーションの普段と変わらないジャン・ドーの自虐的とも思える語りと、映像のジャン・ドーの変貌した姿はギャップが大きく戸惑う時もある。しかし、離婚した妻と子どもたちで過ごす浜辺のシーンは、元気な時には顧みられなかった家族の姿を取り戻そうとする父親の存在感が心を打つ。
美しい言語聴覚士や編集者といった華やかな存在には、こちらまで勇気づけられる。さらに、ジャン・ドーの語り口が面白く暗い気分にさせない。
潜水服を着ているように思うように動けない彼が、蝶のように羽ばたけるのは、ものを書く手段を得られたからだろう。考えていることを外に出すのは、生きるために不可欠な行為なんだと感じる。
決して重くならずに、人が生きているということについて深く考えさせてくれる。