読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

「世界の果ての通学路」 夢という原動力 感想

世界の果ての通学路 Blu-ray

 

「世界の果ての通学路」パスカル・プリッソン監督 2012年フランス ドキュメンタリー 

大人が子どもを信じて送り出す、それを受けて、子どもは世界を、未来を信じることができるようになる。世界の過酷な通学路の現実がこの作品で、目の前に届けられる。

www.sekai-tsugakuro.com

 

4つの国の朝の風景

貧困による教育の問題は、国の中での格差、世界全体での格差と、それぞれのレベルで確実に存在している根深い問題だ。今回は、世界全体を眺めた時に子どもの状況を知るうえで、とても印象に残る作品として「世界の果ての通学路」をおすすめしたい。小中学校が義務教育の日本にいては想像できない、子どもが学校に行くことの大変さを教えてくれる作品だ。

 

まず、世界的に見れば、子どもが初等教育を受けるのは当たり前ではない。将来のために親がなんとか工面し、子どもを学校へ行かせる国も多い。また、就学率と出席率に差の大きい地域もある。この差には、家業の手伝いだけでなく、通学路の困難さが関係しているのかもしれない。学校が近くになければ、何時間もかけて子どもだけで向かわなくてはいけないからだ。送り迎えなど、過保護にする余裕なんてないだろう。

 

この作品で取り上げられる4つの通学路がこれだ。

インド:手作りの車いすで何時間もかけて兄を学校に送っていく二人の兄弟

モロッコ:女の子たちが4時間かけて山道を歩き、寄宿舎のある学校へ行く

アルゼンチン:馬に乗ってパタゴニアの厳しい自然を越え学校へ行く兄妹

ケニア:象の群れに襲われないように平原を駆ける兄妹

 

どれも、想像を絶する過酷な通学路で、言葉を失う。何時間もかけて何キロも離れた学校へ行くために、自分のあらゆる力を使って乗り越えようとするたくましい姿には胸を打たれる。しかし、その顔には、悲壮感ではなく義務感でもなく、生き生きとして希望が満ちて見える。

 

どの子どもたちも力を合わせ知恵を絞っているし、賢い。そして、どの通学路でも笑顔を見せるシーンが多く、見ていて救われる。彼らに向かって同情的な言葉をかけたり、格差への恨み言を問いかけるのはふさわしくないと感じる。

 

もちろん、世界は平等になるべきだし、教育を受けたいと思う子どもがもっと安全に、権利として学校へ行けるようになるのがベストなんだろう。でも今を生きている、子供たちの必死な姿は、それだけで貴い。荒々しい風景の中の頼りないシルエットからも子どもの強さがにじみ出ている。

 

「いってらっしゃい」と言って送り出す

朝、子どもが家を出て行ってしまったら、無事に帰ってくるか、大なり小なり心にかかるだろう。この作品でも「いってらっしゃい」「気をつけて」という日本と同じような朝の祈りの光景が見られる。通学路に親はいない。それどころか、学校の近くにだって人が全然いない国だってある。

 

それでも、親は子どもの生きる力を信じているから送り出せるのだろう。そして、子どもは学校に行けば夢がかなうという親の話を信じているから、力を発揮して学校にたどり着ける。学校に行けば、給食も食べられる。そのために学校へ通う子どもだっている。

 

また、一人で遠路学校へ向かう子もいるんだろうけれど、この作品では、みな二人以上だった。そこから、通学路で協力する力は生きる力だということを自然に知っていくだろうと想像する。通学路では、大人に頼るのではなく子ども同士で力を出し合うことの大切さを自然に学んでいく姿も見えてくる。

 

監督は、多くの世界の通学困難な子どもたちのストーリーに触れた中で、この4っつを選んだという。共通するのが子ども同士協力し、命の危険を感じながら、それでも学校へ行く原動力は、やはり学問によって「夢」を叶えたいという気持ちだ。

 

その夢には家族を助けたいという気持ちも見られる。そういう人と人の結びつきの強さが子どもの強さになっているように思える。だから、困難の多い通学路だって、一っ跳びで越えていけるのかもしれない。

 

日本の通学路に思う

一転、自分の目の前の日常に目を転じて、通学事情の違いに驚くばかりだ。

日本の安全な通学路には象はいない(危険な車や、自転車、たまに危険な大人がいる)。安全な通学路を歩く子どもたちは学校に行くことを、自分の未来を信じているのか?と、一人一人の顔に自信と、希望が浮かんでいる「世界の果ての通学路」を歩く子供たちと見比べてしまう。

 

しかも、学校にはいじめの問題もある。毎日行くことができるのに、苦しくなって自分から死を選ぶことだってある。親や教師に徹底的に管理され、子ども同士によって追い詰められてしまう日本の学校は必ずしも天国ではない。

 

世界の果ても、日本も、未来を信じる力を大切に育てられる環境が、すべての子どもに与えらえるように願う。まずは毎朝、遠い世界の通学路に思いをはせることから始めよう。そして、あれだけの希望を持って学校に通えるように、私たちの身近な子どもたちがもっと輝いた顔になれるように、日本の大人が未来を信じることもきっと大切だ。