「黒水仙」 高潔で禁欲的な尼僧界のスキャンダル 感想
ナルシシズムを感じる高潔さを憎む
水仙は神話のナルシスにも通じる、うぬぼれ屋のイメージがある花で毒もある。黒水仙なんてものは存在していないのだけれど、ブラックなイメージが全開の作品だ。
ヒマラヤの奥地の教会に赴任してきた尼僧たちが、孤独と宗教心、恋愛感情の間で煩悶し、精神に異常をきたすものが出るというストーリーはブラック。
主人公のシスタークローダ(デボラ・カー)はまさに高潔の鏡のような尼僧で、自分の感情を殺しながら神に使えている。過酷な環境に打ちひしがれるが、心の迷いを断ち切り、宗教心に生きることに決めるところが憎たらしいほど高潔。
彼女は美しいけれど、陶器のような冷たさも感じる。
この作品の一番の魅力は、恋に狂ったシスター・ルースだ。この作品での演技を買われて渡ったハリウッドでも、同じような精神異常者の役を求められ苦労したという逸話もある。
クローダをがけから突き落とそうとするが、失敗した刹那に、自分がその場で落ちて死ぬことが最もクローダを苦しめるだろうと考えるなんて、こわ…。
このシーンが忘れられない。
※恋敵であり、高潔なクローダを見るこの目です!本当に怖いんだから!
マイケル・パウエルの極彩色と狂気の世界
マイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーのコンビで「黒水仙」の原作を脚色し監督製作、ジャック・カーディフがテクニカラーで撮影。といえば、「赤い靴」が思い出される。
おなじみの赤い靴の童話を脚色したミュージカル・バレエ映画なんだけど、これも赤い色が攻めてくるような脅迫感のある作品だ。作品の負のイメージを増幅させるように音楽や色彩を使う。
テクニカラーの現実とは違う次元の、ちょっと浮いた絵画のような感覚を芸術の域まで高めたジャック・カーディフの撮影は見事だ。だからこそ、彼らが集まって作る世界は恐ろしい。
筋書、役者、色彩まで見るものを虜にするほどの狂気を表現している。