styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

ミヒャエル・ハネケ監督 「ピアニスト」 見終わって傷つく 感想

ピアニスト [DVD]

貞淑な女教師と美形学生のいびつな恋

厳しい母親に管理されて大人になった女性が、お堅いピアノ教師になる。いわゆる毒母の影響で、女性としての成長を抑えられてしまった悲しい主人公をイザベル・ユペールが演じきっている。

 

その彼女を誘惑する男子学生を、ブノワ・マジメルという金髪青い目の美形役者が演じているのが、何とも憎い。イザベル・ユペールと並んで二人の美しさは世代を超えて完璧なのだ。

 

美しい外見と裏腹に、イザベル・ユペール扮する教師も、ブノワ・マジメル演じる美形学生も性格・性質ともに歪んでいる。男女がこんなに美しいのに、幸せとは程遠い狂った恋に向かって行く。映像はどれも美しいがために、傷ついていく姿は痛々しく感じられる。

 

痛みを感じさせる作品作り

ファニーゲーム」でもそうだったように、「ピアニスト」でもミヒャエル・ハネケらしい痛々しい展開には、途中で目をそらしたくなるくらいだ。

 

見ているものが居心地悪く、辛く、痛みすら感じる追い込み方は、冷徹な脚本と映像、キャスティングによって調和されている。「ピアニスト」ではそれが、最高に洗練されて研ぎ澄まされているように感じる。

 

ハネケ監督はこのように述べている。

逃げ出すのが不可能になる形式を見つけ出そうと、私は試みているのです。状況をラディカルに尖鋭化させて、心理的個人的な鋳型を避けることで、観客自身を不安と攻撃の真っ只中に投げ込むことのできる形式を探し求めているのです。

テレビ東京 CINEMA STREET / ピアニスト

私の映画を嫌う人々は、なぜ嫌うのか自問しなければなりません。嫌うのは、痛いところを衝かれているからではないでしょうか。痛いところを衝かれたくない、面と向き合いたくないというのが理由ではないでしょうか。面と向き合いたくないものと向き合わされるのはいいことだと私は思います。
結局のところ、いかに奈落に突き落とすような恐ろしい物語を作ってみても、我々に襲いかかる現実の恐怖そのものに比べたら、お笑い草にすぎないでしょう。

テレビ東京 CINEMA STREET / ピアニスト

 ※第23回 ぴあフィルムフェスティバル 「知らせざる世界の巨匠 ミヒャエル・ハネケ
インタビュー:スザンネ・シェアマン(映画研究家・明治大学助教授)
ドイツ語翻訳:須永恒雄(独?文化研究・明治大学教授)より転載

 

このように、意図的に、私たちに不安や痛みを与え、その結果まで受け入れて作品作りをしている。いじわるといえばその通り。しかし、恐ろしいことは現実世界でいくらでも起こっているというメッセージも込められているのだ。

 

実社会の痛みの鏡になる?次回作「ハッピー・エンド(原題)」へ

ハネケ監督は2001年の「ピアニスト」後も作品を作っているが、2016年は難民問題を扱った作品を撮影予定という。

 

ハネケ監督次回作はヨーロッパの難民問題もテーマに イザベル・ユペールら出演 : 映画ニュース - 映画.com

 

上記の記事に載っているように、ハネケ監督はヨーロッパの映画人が難民支援に声を上げた「For a Thousand Lives: Be Human」というキャンペーンにも参加している。他にも、ジュリエット・ビノシュジェーン・バーキンレア・セドゥーなど女優陣やスザンネ・ビアなどの監督たちも名を連ねている。

 http://for-a-1000-lives.eu/

 

現実に、今苦しみ・痛みを感じている人たちをどうとらえるのか、原題は「ハッピーエンド」というのは何を意味するのか、興味関心が高まる。イザベル・ユペールの出演というのも「ピアニスト」の余韻を感じさせる。

 

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