styloの映画日記

WEBライターによる映画の感想、コラムなど雑記ですが記していきます。

「エディット・ピアフ 愛の賛歌」 歌姫の人生、光と影 感想

エディット・ピアフ 愛の讃歌 [Blu-ray]

暗闇から響く歌声が耳から離れない

貴方の燃える手で、私をだきしめて…という、エディット・ピアフの「愛の賛歌」を翻訳した日本語の歌詞(岩谷時子作)は叙情的で詩的で美しい。本来は、もっとピアフの激情や生い立ちの厳しさを感じさせるような内容になっている。

Le ciel bleu sur nous peut s'effondrer
Et la terre peut bien s'écrouler
Peu m'importe si tu m'aimes
Je me fous du monde entier

エディット・ピアフ 「愛の賛歌」 歌詞&動画より

青い空が堕ち、大地が避けても、あなたがわたしを愛しているのなら、外の事はどうだっていい。といったところだろう。

※他にも日本語は、美輪明宏作のものも有名で、こちらの方が原曲に近くなっている。

 

「愛の賛歌」は、シャンソンの女王として名高いエディット・ピアフの人生を映画化したこの作品でも、なくてはならない曲だ。彼女の人生の中盤以降に完成するこの歌は、それまでの挫折と苦しみの孤独な人生でようやく見つけた最愛の人に向けられている。

 

その曲の味わいを深く、新しい理解を助けてくれるのは、何といってもそこに至るまでのマリオン・コティヤールによるエディット・ピアフ像があるからだ。世界的に有名なシャンソン歌手の人生がここまで過酷だとは想像しがたい。そして、わがままとか、気まぐれという言葉では片付けられない、ピアフの激情をマリオン・コティヤールが表現してくれている。

 

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マリオン・コティヤールは、変貌も激しいピアフの少女時代から40代後半までの演技のために、特殊メイクなど体を張った演技を見せた。それだけだけでなく、自分を無にして別の魂を再現できるのではないかと思わせるような集中力と表現力のあるスゴイ女優なのではないかという気迫を感じた。

 

人生の明暗を表現する舞台と曲

今でこそ、シャンソンというとおしゃれなイメージがあるが、ピアフのいた場末のミュージックホールのような、見世物小屋のような怪しい酒場の雰囲気は今では再現されるのが難しい。その薄暗さを再現した映像も素晴らしい。

 

また、薬漬けになり廃人同然のところから再び立ち上がり大舞台で歌うシーンも、明暗の表現が要になっている。真っ暗な舞台にスポットライトの光が差し、歌い上げるピアフが輝いて見える。

 

「愛の賛歌」とともに「パダン」も耳だけでなく心に響く曲だ。パダン・パダン・パダンという繰り返しのフレーズは足音とも心音とも思える緊迫した音を表現している。人生の不幸におびえるピアフが感じた光と影がこの二曲に現れているように感じる。

 

マリオン・コティヤールの演技によるピアフの人生を知り、歌の持つ力や響きのすごみが増した。

 

※余談だが、撮影監督には日本人のTesuoNAGATAが担当している。今回知って驚いたことに、彼の光の繊細な表現はオドレイ・トゥトゥ出演、ジャン・ピエール・ジュネ監督のシャネル5番のCMでも発揮されていた。このCM好きだなと思ったのには、そういう理由があったのか。


The new CHANEL N°5 film