チャップリンが一人二役 「独裁者」 感想
独裁者と床屋の二役で笑わせる
ユダヤ人街に暮らす床屋のチャーリーが記憶喪失になっている間に、世間ではユダヤ人弾圧・領土拡大のための戦争が広がっていた。それはチャーリーにそっくりの独裁者、ヒンケルの台頭によるものだった。
いつも通りの、とぼけたスタイルとずっこけで終始和ませてくれるときゃのチャーリー。ドジなしぐさにヒヤヒヤさせられながらも応援してしまう。チャーリーをサポートする町の仲間と、憲兵たちと勇敢に戦う恋人ハンナも魅力的だ。
一方、ヒンケルの座ろうとする椅子は必ず壊れているし、挨拶をするたびに頭をぶつける。意外と小心者というのも独裁者をコケにして笑いを誘う。ドイツ語っぽい演技や、イタリア語っぽい演技の応酬も見ものだ。
映画史を知らなくても、ヒンケルのモデルがナチスのヒットラーであることは一目でわかるだろう。強きをくじき弱気をたすく、笑いがちりばめられたシンプルな作品でありながら、当時の情勢を重ね合わせた強い政治メッセージが込められている。
人間チャップリンからの自由の宣言
第二次世界大戦の始まるころにアメリカで作られたこの作品は、その後チャップリンを国外追放させるほどの政治的影響力を持つことになる。チャップリンはが伝えたかったことは、床屋のチャーリーとヒンケルが入れ替わった最後のスピーチにに要約される。
ユダヤ人も、ユダヤ人以外も、黒人も、白人も。私たちは皆、助け合いたいのだ。人間とはそういうものなんだ。お互いの幸福と寄り添いたいのだ……。お互いの不幸ではなく。憎み合ったり、見下し合ったりしたくないのだ。世界で全人類が暮らせ、大地は豊かで、皆に恵みを与えてくれる。人生は自由で美しい。
中略
今こそ、闘おう。約束を実現させるために。闘おう。世界を自由にするために。国境のバリアをなくすため。欲望を失くし、嫌悪と苦難を失くすために。理性のある世界のために闘おう。科学と進歩が全人類の幸福へ、導いてくれる世界のために。兵士たちよ。民主国家の名のもとに、皆でひとつになろう。
煽動的なスピーチの内容は、プロパガンダ映画として批判を受け、陳腐な映画と過小評価された。しかし、このスピーチの撮影に踏み切った時に、チャップリンは自分の保身を捨てたのだろう。何に変えても伝えたいという気迫が、俳優ではない一個人としてのチャップリンの姿になり最後のスピーチにうつされているように見える。
こちらの動画は、スピーチに2011年時点での世界情勢をあてはめたものだ。チャップリンの示唆する権力による奴隷化は、状況を変えいまだに続いている。人類の自由を賭けた闘いは今も終わっていないと、このスピーチががつきつけてくる。